健康心理学科10周年にあたって
(掲載日:2015年05月23日)平野哲司
10周年記念誌への寄稿依頼をお受けしたものの,〆切を過ぎてなお筆が進まない。雑事に追われていることはその理由のひとつであるが,その一方で,10周年を迎えるにあたって思うところをうまく表現できる言葉が見つからないのも確かである。それは私の語彙力や表現力のなさに起因するところもあるのだろうが,それよりは言葉で表現しようとすると満足に伝えられない気がしている。むしろそうした思いは“行間”にあるように思う。
“行間”に類似したことで学生に時折言うことに,大学で学んだことは在学時あるいは卒業後すぐに役に立つわけではない,というのがある。大学に問いの答えを求めに来ても,その答えは4年間で見つかることは稀で,むしろその後の人生の中で,場合によっては何十年後かに,知らず知らずのうちに滲み出てくるものではないかと思う。同じことは学科という組織に対しても当てはまるのではないだろうか。ゼロベースからの10周年は,その間にとんでもないエネルギーと努力があればこそ成せるものであるが,同時にたかが10年で健康心理学科とはかくあるべしという“正解”を明確に表現するのは難しいように思う。ただ,1つだけ確かなのは,本学科は健康をキーワードとしており,これを指向していくことが命題であるということである。さらに,ここで指す健康とは何かという根源的な問いに向き合うことも重要であろう。“上から目線”のようで恐縮だが,これまでの10年ではこうした命題に向けて,学科教員,学生共々邁進してこられた。ただし,結論が出たわけではなく,これからも不断の学究が求められる。そのための解法はなく,従ってこれからも試行錯誤が続くと予想される。これまでの10年を礎に次の10年を迎えた時に得られる“行間”に,今以上の“正解”を実感できるよう,微力ながら貢献していければと思っている。